この記事は、Play 02〜06 で /daily-schedule /mail-triage あたりのコマンドを手元で動かしている前提で書いています。コマンドが増えてきて、毎回おなじ自己紹介を打つのがダルくなってきた。そう感じはじめたあなたに向けた、土台づくりの回です。
第1章毎回同じ説明をしている時点で、まだ覚えていなかった
Play 06 を出してしばらく経った、ある月曜の朝。ふと、自分の手元を眺めてみたんです。/daily-schedule を叩く前に、毎回 Claude へ 「いまの私はマーケ寄りの担当で、敬体で書いて、今週は◯◯の資料を優先」 と8行くらい打ち込んでいました。それも、毎セッション欠かさず。
同じ文章を 5日連続で 打っていると気づいた瞬間、背中がスッと冷たくなりました。Play 02 で「最強プロンプトは無力」と偉そうに書いたのに、自分は毎朝それを口で再演していたわけです。記録に残らないから、また新品からやり直し。正直、笑えませんでした。
問題はAIに記憶がないことじゃなかった。「自分の仕事や状況をどこに置くか」を決めていなかった。これだけでした。置き場所がないから、毎回あなたが口で配達するしかない。荷物に住所が書いてないのと同じです。
気づくと、急にこの作業が重く感じました。1回30秒、5回起動で2分半、月22営業日で約55分。数字にすれば小さい。でも 「同じ説明を打つ自分」が一日に何度も顔を出すのは、思った以上に削られます。ここを消しにいきます。
第2章CLAUDE.md だけ厚くしても、別のセッションで忘れる
最初に手をつけたのは、ホームに置く ~/.claude/CLAUDE.md を太らせることでした。これは「Claude Code が起動時にかならず読むグローバル指示書」です。ここに書いておけば、毎セッション勝手に自分の仕事や状況が乗ってくれる。便利そうですよね。
はじめは5行でした。「日本語・敬体・結論ファースト」。すぐ足りなくなって、翌週には50行、その次は100行。1ヶ月で 250行 まで膨らみました。
250行に何を詰めたか。役職・文体・ツール・行動原則。さらに 進行中PJT3件の固有名と関係者リスト、今月の重点課題、来週の打ち合わせまで。要するに、頭の中にあるものを全部ぶち込んだんです。下のファイルが、その肥大化期の中身です。
# 基本情報 - 名前:◯◯ - 役割:マーケ担当 - 文体:敬体・結論ファースト # 進行中PJT - サンライズ商事の提案:5月中に提出、担当は佐々木さん - ブルーマウンテン社の白書:編集中、今週金曜に田中さん戻し - 採用面談:来週月曜10時、候補は近藤さん # 今月の重点 - 展示会リスト作成(5/8まで) - ハウスリスト再分類(5/15まで) # 文体ルール (中略 60行) # ツール (中略 40行)
動いてはいました。最初の3日は。
ところが4日目。サンライズ商事の提案は前日に提出済だったのに、Claude は「5月中に提出予定」と CLAUDE.md の文字を信じて、まだ進行中の扱いで返してきました。翌週には、田中さん戻しの白書もとっくに終わっているのに「今週金曜戻し予定」のまま。書いた本人がドキッとしました。
ここでようやく腑に落ちました。CLAUDE.md は「半年触らない不変の置き場」のはずなのに、私はそこへ 「来週には変わる情報」を混ぜていた。AIは書いてある通りに信じます。古いまま走るAIは、毎朝説明していた頃よりむしろタチが悪いんです。
CLAUDE.md には「いつ書き換えるか」のルールがありません。だから「いつ古くなるか」も誰も握っていない。ここに今月だけの予定を入れると、更新する人が決まっていない古い指示が、いつまでも勝手に発火し続けます。次の章で、この置き場を分けにいきます。
第3章memory/ を足した、けど混乱した
第2章の事故のあと、memory/ というフォルダを切りました。Claude Code には「memoryから情報を引いてくる」動きがあります。これを使えば 「動く情報は memory、動かない情報は CLAUDE.md」 と分けられるはず。そう踏んでいました。
最初の memory は1ファイルだけ。memory/notes.md に、進行中PJTから今月の重点まで全部詰め込みました。CLAUDE.md は70行まで痩せさせました。
これで解決、と思っていました。1週間は。
翌週の月曜、別件の壁打ちをしていたら、Claude がいきなり 「先週おっしゃっていた『資料Aは最優先』の方針に従うと…」 と語り出したんです。資料Aはもう最優先じゃない。前の週の一時的な指示でした。それが memory/notes.md にうっかり残ったまま、まだ生きていた。
原因はすぐわかりました。memory に「書き換えるタイミング」が違うものを全部突っ込んでいたんです。今週だけの優先度、ずっと変わらない自分のプロフィール、過去の失敗から学んだ修正、PJTの進捗。ぜんぶ1ファイル。AIからすれば、どれも「いまの文脈」として同じ重みで読むしかありません。
CLAUDE.md でやらかしたのと、まったく同じ穴でした。置き場を変えただけで、仕分けの仕組みがないまま積み増していた。だから、ここに「分け方のルール」を入れます。
置き場所は、情報の中身じゃなく「いつ書き換えるか」で決めればいいんじゃないか。
役割・文体・行動原則は半年いじらない。自分のプロフィールは年1回。今月の優先度は月初に。進行中PJTは週ごと。失敗からの学びは起きたときだけ。書き換える周期がバラバラなものを同じファイルに入れると、かならず古い情報が新しい指示を食いにきます。
第4章4つに分け直した、いつ更新するかで
さっきの仮説を、そのまま設計に落とします。memory/ の中身を ファイル名の頭文字で4種類 に仕分けました。基準は 「いつ書き換えるか」 のひとつだけ。マーケ/人事/個人みたいな中身のジャンルでは、あえて分けていません。4つの中身はこうです。
4つの役割が決まると、線の引き方もスッと見えてきます。半年いじらない ものは CLAUDE.md と user。古びないけど時々足すのが feedback。動く のは project だけ。これだけ覚えれば迷いません。
CLAUDE.md には「memory にこういう頭文字のファイルがあるから、必要なら読みに行ってね」という案内だけを書きます。中身は memory に逃がす。おかげで CLAUDE.md 本体は133行まで痩せました。下が、そのスリム化後の中身です。
# 基本情報 - 名前:◯◯ - 役割:マーケ寄りの担当 - 結論ファースト・敬体 # memory/ の参照ルール - 本人プロファイル → memory/user_*.md - 過去のフィードバック → memory/feedback_*.md - 進行中PJTの文脈 → memory/project_*.md - 外部システムの参照先 → memory/reference_*.md - 全体index → memory/MEMORY.md # 行動原則 (中略 ・ 全プロジェクトで普遍の原則のみ)
あわせて memory/ には、目次ファイルを1枚だけ置きました。memory/MEMORY.md、99行。中身は 「どんなファイルがあるか・1行説明・リンク」 だけです。AIが「どこを読めば何が載っているか」を、最初の1枚でつかめるようにする。下のような見た目です。
# Memory Index ## user - [user_profile](user_profile.md) ─ 本人の役職・知識領域 ## feedback - [絵文字使用禁止](feedback_no_emoji.md) ─ HTML/SVG/本文すべて禁止 - [チャット返信は簡潔に](feedback_chat_brevity.md) ─ 見出し多用しない - (他 30件…) ## project - [サンライズ提案PJT](project_sunrise.md) ─ 担当・状況・次タスク - [ブルーマウンテン白書](project_bluemountain.md) ─ 編集進捗 ## reference - [社内Wiki参照先](reference_wiki.md) - [外部ダッシュボード](reference_dashboards.md)
規模感を言うと、memory/ 全体ではいま 120ファイル・合計8,525行 あります。数字だけ見ると重そうですよね。でも、AIが起動時に読むのは ~/.claude/CLAUDE.md(133行) と memory/MEMORY.md(99行) の2枚だけ。残り118ファイルは 必要になったときにAIが自分で取りに行く。だから土台は232行で足ります。あなたも、まずこの2枚から作ればいい。
第5章3回踏んだ、失敗
CLAUDE.md に「進行中PJTの固有名」を、つい書いた。
4種類の運用に切り替えて2週目、大きめのPJTが新しく始まりました。大事だから忘れない場所に置きたい。そう思って、~/.claude/CLAUDE.md の末尾に 「最重要PJT:サンライズ商事、担当◯◯、5月末提出」 と3行足したんです。第2章とおなじ、変わらない置き場に今だけの情報を入れる初歩ミスでした。
2週間後、サンライズ案件は提案が通って次のフェーズへ。担当者も変わりました。なのに CLAUDE.md の3行は古いまま。Claude は 「5月末提出に向けて」 の前提で動き続けます。気づいたのは、別件で「PJT一覧を出して」と頼んだとき。古い肩書と古い期日がしれっと出てきました。
引っ越し先は memory/project_sunrise.md。CLAUDE.md のほうは 「最重要PJTは project_*.md を見て」 の一行に差し替えました。変わらない置き場には固有名を1文字も書かない。書きたくなったら project に逃がす。あなたも、固有名を打つ手が止まったら「ここは project だな」と思い出してください。
feedback_*.md に、今だけ有効な指示を書いてしまった。
ある日、特定の打ち合わせ前だけ「資料Aを最優先で見せて」という方針が必要になりました。feedback は「修正のたまり場」だから、ここに書けば覚えてくれるだろう。そう思って feedback_priority_a.md として保存したんです。
打ち合わせは翌週で終了。その方針はもう要らない。ところが feedback は 「ずっと効くルール」のつもりで作ってあるので、月をまたいでも元気に生きていました。1ヶ月後、別件の壁打ち中に Claude が「資料Aの方針に従うと…」と言い出して、変わらない置き場に賞味期限つきの指示を混ぜていたと気づきました。
feedback に書いていいのは、「いつでも・どのPJTでも効く修正」 だけ。「絵文字を使わない」「チャット返信は簡潔に」のような、半年経っても腐らないものです。今だけの優先度は project に書いて、打ち合わせが終わったらそのファイルを消す。これを忘れないでください。
project_*.md に、ずっと残したい方針を書いてしまった。
今度は逆向きのミスです。あるPJTで「いつもクリティカルシンキングの3点(提案/反論/正しい条件)を入れる」運用を始めたとき、その方針を project_thinking.md に書きました。動いているPJTだから、つい project の名前で。
そのPJTは2ヶ月後に完了し、ファイルは削除候補リスト入り。消した瞬間、ずっと残したかった「クリティカルシンキング3点ルール」も一緒に消滅しました。1週間後、Claude の壁打ちが前より浅くなっているのに気づいて、削除したファイルを掘り起こす羽目に。トホホでした。
原則はシンプルです。そのPJTが終わっても残したいルールは、project に書かない。書くなら feedback か CLAUDE.md。判断は「PJTと一緒に消えていいか」のひとつだけ。あなたが project に何か書くとき、まずこれを自問してください。
3回とも、4種類に分けた設計そのものは悪くありませんでした。やられたのは 手を動かすときの判断です。CLAUDE.md に何か足したくなったとき、feedback に書きたくなったとき、project に書きたくなったとき。毎回 「これ、PJTが終わっても残したい?」を1秒だけ考える。これをサボると、上の3つのどれかに必ずハマります。だから、書く前に一拍おく癖をつけてください。
第6章動き出した、土台のある朝
月曜の朝。Claude Code を起動して、いきなり本題から打ち込みます。「サンライズの提案、二次案を作りたい」。「私はマーケ担当で、敬体で…」はもう打ちません。起動時に CLAUDE.md と MEMORY.md が読まれて、必要なら Claude が memory/project_sunrise.md を自分で取りに行ってくれる。あの8行が、まるごと消えました。
測ってみると、口頭再演に溶けていた時間は 月55分 → 0分。でも効いたのは時間そのものより、「同じ説明を打つ自分」が一日に何度も現れなくなったこと。Play 06 でたまったメールの整理・仕分けの判断疲れが消えた話と、根っこは同じです。AIに記憶させるというより、自分の仕事や状況を、必要なときにすぐ探せる場所に出しておく感覚に近い。
うれしい副産物もありました。memory/ を Git で管理するようになったことです。~/.claude/projects/-Users-.../memory/ をリポジトリにしておくと、別のPCに移っても git pull 一発で同じ自分が立ち上がる。これは狙っていなかった効果で、出張先のノートPCでAIが 「いつもの自分」として動き出した瞬間、ああ土台ができたな、と実感しました。
4種類の運用に変えてから、CLAUDE.md は 133行で安定しています。失敗 01〜03 を踏んでからは、何か書きたくなったら 「この情報、PJTが終わったら消えていい?」だけを自分に聞く。Yes なら project、No なら feedback か CLAUDE.md か user。3秒で決まります。あなたも、これだけ握っておけば大丈夫です。
次の Play 08 では、この土台の上にもう一段積みます。過去の議事録・提案書・社内資料を knowledge/ に、必要なときにすぐ探せる形で並べる話です。memory/ が「自分の仕事や状況」なら、knowledge/ は「過去の資料の住所録」。土台 → 住所録 → 専門業務、の順で積み上げていきます。まずは今日、CLAUDE.md と MEMORY.md の2枚を作るところから始めてみてください。